■ 5分でも死に至る「窒息」 食べながら走ったり、笑ったり…が危ない | 9/1(火) 15:10配信 |
読売新聞(ヨミドクター) 山中龍宏「子どもを守る」 保育の場で、細心の注意を払っていても窒息は起こります。 <3歳児。咀嚼(そしゃく)する力が弱く、口の中で食物を押しつぶすようにして飲み込んでいた。そのため、食事の際は必ず保育士が付き添い、食物を適当な大きさにして提供するなど細心の注意を払っていた。 午後3時12分頃、おやつとして背割りにしたパンに、油でいためたウィンナーとキャベツにケチャップやカレー粉で味付けしたものを挟んだホットドッグと、牛乳が出た。この子には、食べやすい大きさになるよう手でちぎって与えていた。4口目を与えた数秒後、急にいすから立ち上がり、息苦しそうにした。保育士は、すぐに窒息を疑って背中をたたき、同17分に救急隊を要請した。 5分後に救急車が到着。救急隊員がドクターヘリを要請し、同48分にヘリコプターに収容された。一時は心肺停止の状態であったが、同52分に心拍が再開した。病院で治療を受け、約8か月半入院。退院後は自宅療養となった> 子どもの事故の中で重症度が高いのが窒息です。乳幼児、障害児では窒息が起きやすいので、危険な状況や食べ物、そして処置について知っておく必要があります。 食道に入ると「誤飲」、気道に入ると「誤嚥」 気道とは、空気が通る道のことで、口から、咽頭、喉頭、気管、気管支、細気管支の順に細くなり、最後の袋状になっている部分を肺胞と言います。ここで空気中の酸素を取り込み、炭酸ガスを排出しています。 異物が口を経て食道に入るのが「誤飲」ですが、気道のほうにモノが入ってしまうこともあります。これを 誤嚥(ごえん)」と言います。「気道異物」「気管支異物」とも呼ばれます。「誤嚥して窒息した」「誤嚥して気管支異物になった」という言い方をします。 「窒息」は、そのように気道の一部に食べ物や異物が入ったり、あるいは外部から圧迫されたりして気道が完全に閉ざされ、酸素が不足する状態を指す言葉です。これに対し、「気道異物」「気管支異物」と言う時は、気道のどこかに異物が存在しても、空気がある程度通過できる状態を指します。 窒息には、「鼻や口の閉塞(へいそく)」「気道の圧迫閉塞」「気道内異物による閉塞」「胸郭部の圧迫による呼吸運動障害」などのケースがあります。 窒息は子どもの事故の28%を占める 人口動態統計(2018年)によれば、15歳未満の「不慮の事故死」は287人、そのうち窒息死(溺死などを除く)は81人と28%を占め、0歳51人、1〜4歳18人、5〜9歳6人、10〜14歳6人でした。0歳児では、その80%が窒息でした。内訳は、「胃内容物の誤嚥・吸引」「気道閉塞を生じた食物の誤嚥・吸引」「気道閉塞を生じたその他の物体の誤嚥・吸引」「詳細不明の窒息」の四つに分けられますが、胃内容物の誤嚥による窒息の原因がミルクとされている場合には、ミルクが直接の原因なのか、解剖時に気管内にミルクが認められただけなのかを判断することはたいへん難しいものです。また、0歳児で最も頻度が高い突然死は、乳幼児突然死症候群(Sudden Infant Death Syndrome:SIDS)ですが、突然死で解剖された例を検討しても、死因が窒息であるのか、SIDSであるのか、はっきりしないケースが多くあります。乳幼児以外でも、脳性麻痺(まひ)、精神運動発達遅滞、喉頭部の奇形など、基礎疾患がある子どもでは窒息の危険性が高くなります。 蘇生しても低酸素性脳症のリスク 空気は鼻や口から、食べ物は口から喉に入ると、喉の奥で、食べ物は食道へ、空気は気管へと分かれて入るようになっています。食べ物を飲み込むときは、気管の入り口にある喉頭蓋が気管にふたをして、入り込まないようにしています。乳幼児では、この働きが鈍く、気管にものが詰まりやすいのです。また、子どもは食べながら、走ったり、遊んだり、笑ったり、泣いたりします。その時、大きく息を吸い込むと、口の中にある食べ物が気管に入って詰まってしまいます。 窒息は瞬時に発生し、5〜6分間、気道が閉塞されると死亡することもあります。心肺蘇生によって蘇生したとしても、低酸素性脳症となって、その後の生活に大きな支障をきたすことにもなります。ですから、保護者は、窒息に関する知識を持っておく必要があります。次回から、具体的な窒息についてお話しします。 山中 龍宏(やまなか・たつひろ) |