■ 小児科専門医が世界中の研究を調べ尽くした「子どもと新型コロナ」で気になる8つのポイント 8/25(火) 11:52配信






子どもとコロナについてわかっていることをお伝えします
今年の夏は、テレビもインターネットもSNSも、どこを向いてもコロナコロナと、夏バテならぬ、コロ夏バテしている方々も多くいらっしゃると思います。

ほんと、疲れますよね。今年の夏はほんとコロナツです……

そして、子どもが家庭内にいらっしゃる方、また、子どもに関わるお仕事に従事されている方々など『コロナと子ども』についてわからないことを抱えていらっしゃる方も多いと思います。

そんな方々に少しでも子どものコロナについて、今わかっていることを整理していただくために、子どものコロナについて気になる8つのポイントについて説明したいと思います。【寄稿・伊藤健太 / BuzzFeed Japan Medical】




1.子どものコロナ、大人より少なく、軽症です
新型コロナウイルス感染症はSARS-CoV-2というコロナウイルスによる感染症でCOronaVIus Diseases-2019を略してCOVID-19と言います。

まず、子どものCOVID-19はどんな病気か、大まかにまとめます。

子どものCOVID-19は、現時点でわかっていることとして、成人に比べ少なく、軽症です。

2020年8月上旬時点で米国小児科学会のサーベイランスデータによると、報告された全症例のうち子どもは約9%、州別では全入院の0.5〜5.3%を占めるのみです。

2018年の米国の20歳未満人口が25%であることからも人口割合以上に感染者数が少ないことがわかります。

最も早く流行が拡大した中国でも同様で、0〜19歳は全入院数の1.2%を占めるのみでした[1]。

日本でも同様に7月15日時点のデータですが、年齢が判明している感染者22140例中、10代以下は1064例で4.8%でした。

このように子どものCOVID-19は成人に比べて少ない傾向があります。

重症度も低いです。先に示した米国の報告でも感染した子どもの中で入院は0.3〜8.9%にすぎません。

入院=重症」でいいの?





コロナで入院するからといって重症とは限らない
ただし、入院イコール重症と判断するのは注意が必要です。

例えば、日本ではCOVID-19は感染症法に基づく入院勧告・措置が行われる疾患であり(現在では施設入所や自宅療養が行われてはいますが)、どれだけ軽症でも入院していることが多々あります。入院率を重症度の参考にすることは難しいです。

また欧州で行われた多国間の追跡研究では子どもの感染者の入院率は62%です[2]。

隔離を目的に入院させる場合もありますので、入院だから重症というわけではありません。

そのため、重症度を検討した研究を見てみましょう。中国では酸素飽和度が92%未満(血液の酸素濃度が低い状態)である場合に重症と定義したところ5.9%が合致しました[1]。

7780人の小児について検討したシステマティックレビュー(今あるエビデンスを系統的に検索し、評価する研究手法)でも、重症患者が入院する集中治療室への入院歴は3.3%でした[3]。

日本では、診療の手引きに基づいた重症度分類による重症者割合は10代以下で0%です(50代1.9%、60代8.0%、70代6.4%、80代以上2.4%)。

このように成人に比べ子どものCOVID-19は軽症であることがわかると思います。



子どもにとって、インフルエンザより怖い病気?





子どもにおけるインフルエンザとCOVID-19の比較
次に他の感染症に比べた場合はどうでしょうか?

子どもの感染症といえばインフルエンザと思う方もいると思います。

では、インフルエンザとCOVID-19について比較してみましょう。

死亡には大きな差はないように見えます。

しかし、インフルエンザは小児人口の1割弱がかかっています。

一方、COVID-19は米国ほどの流行があっても、10万人当たり500人程度で、明らかに数が少ないです。インフルエンザは感染者数が多いため同じくらいの死亡率でも、総死亡者数はより大きいと思われます。

インフルエンザは比較的、サーベイランスデータが豊富ですし、皆さんもイメージがしやすい病気です。そのインフルエンザと比較してもとびぬけて子どものCOVID-19が重症ではないことがご理解いただけたでしょうか?

私は、子どものCOVID-19にまつわる様々な事柄を扱う上で、この

『子どものCOVID-19は多くはなく、重症度もとびぬけて高くない』

という前提を踏まえることが非常に重要だと思います。

長期的な後遺症などまだまだ分からないことは多くありますが、誤解を恐れずに言うならば、

『子どものCOVID-19は普通感冒(いわゆる風邪)やインフルエンザなどの一般的な感染症と大きく変わらない』

です。

そのうえで子どもの学校・幼稚園・保育園などの集団生活や、マスクの使用方法などの感染対策、COVID-19対策の子どもへの様々な影響などについてできる限りエビデンスに即して、わかりやすくお答えしていきたいと思います。


2.子どもがかかるとどんな症状があるの?





子どもで出てくる症状を成人と比較したもの
まず、重症化しないとはいえ、どのような症状があるのでしょうか? そして、どんな症状に気を付ければよいのでしょうか?

一般的な感染症と大きく変わらないと述べた理由の一つが、子どものCOVID-19の症状です。

米国疾病対策センター(CDC)が4月にまとめた報告では、小児COVID-19の症状は下の表にあるように、咳、熱などの症状が中心となっています。[6]

普通の風邪に比べて鼻汁を訴える人の数が少ないのは、特徴と言えば特徴かもしれません。

しかし、鼻汁があってもなくても、症状のみでCOVID-19か、普通の風邪か、また秋口から流行するインフルエンザと見分けがつくとは、私には到底言えません(インフルエンザも症状のみから診断することは難しいといわれています[7])。

さらに全く症状がない子どもが数%から3割弱いるといわれています。

子どものCOVID-19が咳や発熱などの症状だけで疑いを強めたり弱めたりできないならば、どうすればよいのでしょう。実際これはかなり難しい問題で、無理ゲーであるといわざるを得ないのが現状です。

そのような中、現状わかっている子どものCOVID-19の特徴として、家族内感染が多いことは一つの光明かもしれません。7780人の小児を検討した先のシステマティックレビューでも、およそ75%の患者は家族内で感染者と接していました[3]。

子どもがCOVID-19であるかどうか?を予測するのに、最も必要な情報は

家族内で感染者と接したかどうか

なのです。



3.重症化のサインは?





重症化を見逃さない肝は呼吸が苦しいサインを見逃さないこと
ただし、少ないとはいえ子どもが重症化することはゼロではありません。そのため、どんな形で重症化するか知っておくと少し安心だと思います。

子どもの重症COVID-19は大まかに2つの形があり得ます。

1.呼吸不全(呼吸の状態が悪い)
2.多臓器にわたる炎症


です。

まず、呼吸不全ですが、子どもでも呼吸状態が悪化して、酸素投与や人工呼吸器を必要とする症例は多くはないですが報告があります。7780人の検討では11.7%に呼吸困難(呼吸が苦しい)が現れ、人工呼吸器が0.54%に必要となっています

肝は、呼吸が苦しいサインを見逃さないことです。

呼吸が苦しいサインとは

1.呼吸が早い
2.陥没呼吸(胸と腹の間やのどと胸の間が息を吸う時に凹む)
3.尾翼呼吸(鼻の穴をぴくぴくさせる)
4.うなるような呼吸(吐くときにンーンーいう)


などです。

50m走を走った後のような呼吸を、寝ているときや安静にしているときにしていたら要注意です。

ただし、このような呼吸はCOVID-19関係なく、常日頃から注意してほしい状態です。

次に、多臓器にわたる炎症を見てみましょう。

2020年5月くらいに欧米を中心にやや小学校低学年くらいの年齢の子どもに、川崎病に似た症状(発熱、皮疹、眼や口の粘膜が赤くはれるなど)を起こすCOVID-19患者が多く報告されるようになりました。

その中の10〜20%で心臓機能が低下し、2〜4%が死亡しています[8]。

多くの臓器にわたり炎症が起きているという意味でPediatric Inflammatory Multisystem Syndrome: PIMSやMultisystem Inflammatory Syndrome in Children: MIS-Cなどと呼ばれています。なぜか日本をはじめとする東アジアではまだ報告がありません。

この病状はCOVID-19流行から2〜4週間以上経ってから起きることがわかっています[8]。

日本でこの病態が子どもの間で起きるかは未だ不明ですが、子どもの間でCOVID-19流行が起きた後1〜2か月は注意が必要です。

COVID-19流行後に全身状態が悪い子ども(年齢中央値は8歳くらい[9, 10])がいたら要注意です。ただし、そんなに具合の悪い子どもがいたらCOVID-19関係なく対処が必要ですよね。

まとめるとCOVID-19の流行があろうがなかろうが、状態が悪いと思う子どもにはぜひ注意を向けてください。