■ 狂犬病ワクチンに第2の選択肢が登場2019/5/10




北村 正樹(東京慈恵会医科大学附属病院薬剤部)









 2019年3月26日、乾燥組織培養不活化狂犬病ワクチン(商品名ラビピュール筋注用)の製造販売が承認された。適応は「狂犬病の予防及び発症阻止」、用法用量は「添付の溶解液(1.0mL)に溶解し、1回量1.0mLを適切な間隔で3回(曝露前免疫)または4〜6回(曝露後免疫)筋注接種」となっている。

 狂犬病は、RNAウイルスである狂犬病ウイルスによって引き起こされる。狂犬病ウイルスは、ウイルス保有動物(犬、猫、コウモリなど)の咬傷により、唾液を介してヒトの体内に侵入し、傷口付近の筋肉から神経末端に入って中枢神経を遡ることで脳に達する。脳で増殖したウイルスは、再び神経系を経由して唾液腺など別の組織へと急速に広がる。

 狂犬病の初期症状は、発熱や頭痛などの感冒症状に加えて、咬傷部位の疼痛やその周囲の知覚異常、筋攣縮を伴う。増殖したウイルスによる炎症が進行すると、錯乱、幻覚、攻撃性、恐水発作などの筋痙攣を呈し、最終的には昏睡状態から呼吸停止を引き起こして死に至る。感染から臨床症状が発現するまでの潜伏期間は咬まれた部位により幅があり、通常は1〜3カ月だが、1週間未満から1年を超える症例も報告されている。

 狂犬病は、保有動物に咬まれた後でも速やかに抗血清(中和抗体)を投与すれば、液性免疫(中和抗体)が産生され、発病阻止に有効である。しかし、一旦発症してしまうと特異的な治療法がなく、ほぼ全員が死に至る。

 日本は、1957年以降感染例が報告されていない狂犬病清浄国であるが、全世界ではアジア、アフリカを中心として狂犬病が流行しており、年間死亡者数は5万9000人と推定されている(WHO推計、2018年)。近年、訪日外国人旅行者数や日本人出国者数が年々増加しており、狂犬病流行地域への渡航者や海外勤務者へのトラベラーズワクチンとして、狂犬病ワクチンの接種の必要性が高まっている。

 現在、狂犬病ワクチンとして乾燥組織培養不活化狂犬病ワクチンの皮下注製剤が使用されている。しかし、既存製剤は製造用ウイルス株の増殖性が低く、大量生産が困難であることから、厚生労働省は医療関係者に対して、「海外帰国者の曝露後免疫に優先的に使用する」ことを求める注意喚起を行っている。

 ラビピュールは、ニワトリ胚初代培養細胞を用いた細胞培養由来狂犬病ワクチンの筋注製剤である。既存製剤に使われているワクチン株(Flury HEP株)と同系統のワクチン株(Flury LEP株)を不活性化したものを有効成分としている。曝露前免疫(国内臨床試験)および曝露後免疫(海外臨床試験)において、高い中和抗体価(免疫原性)が示された。海外では、1984年ドイツで承認されて以来、2018年7月現在、米国など世界70カ国以上で承認されている。

 使用により副反応が4〜67.6%に認められている。主なものは疼痛、紅斑、頭痛、倦怠感(各10%以上)などであり、重大な副反応としてショック、アナフィラキシー、脳炎、ギラン・バレー症候群を引き起こす可能性がある。