■ 命に関わる損をさせても「表現の自由」なのか 健康本を巡る出版関係者の思い9/12(火) 15:30配信







BuzzFeed Japan







命に関わる損をさせても「表現の自由」なのか 健康本を巡る出版関係者の思い


ベテランライター、総合出版社の編集者、医療専門の編集者、大手出版社幹部、それぞれの目から見た「健康本」。


“目は1分でよくなる!”“《塩と水》だけであらゆる病気が癒え、若返る”“がんに勝つレシピ”“医者に頼らなくてもがんは消える”……書店やAmazonで目を引く場所には、このようなタイトルの、いわゆる「健康本」がずらりと並んでいる。

これらには医師などの専門家から「科学的根拠が疑わしい」と批判の声も多い。特に、“医者に頼らなくてもがんは消える”のように医療を否定・批判する本は、それを読んだ患者が適切な受診機会を逃し、命に関わる可能性もある。

このような健康本について、出版業界の「中の人」は、実際のところ、どう思っているのだろう。複数の出版関係者に話を聞くと、変わりゆく出版業界の姿が浮かび上がってきた。【BuzzFeed News Medical / 朽木誠一郎】
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「そんなの9割ウソだから」「作っているのオレなんだから」と、健康本ライターは母に言いたい。

健康本を作っているのは、どんな人なのか。例えば、Aさんは何冊か健康本を執筆した経験のある、50代の男性。理系ジャンルが専門のライターだ。

どんな本を執筆したのか、そのうちの1冊を見せてもらった。タイトルと内容は「ある食品が認知症に効く」と謳うものだった。

著者はAさんではなく、ある医師の名前になっている。Aさんの名前は「編集協力」として奥付に入っていた。いわゆるゴーストライターだ。

Aさんはこの本を「何でも屋さん的な仕事をする編プロ(編集プロダクション)」の依頼で執筆したという。

この場合は、出版社が編プロに原稿を依頼し、編プロがその執筆をライターに依頼。納品された原稿を、出版社が著者の医師と確認する、という流れになる。

「付き合いのある編プロが“こんな仕事を受注しちゃったのですが、どうしたらいいでしょう”“Aさん、理系だからできるんじゃないですか”と相談してきたのです」

Aさんは、出版社と著者の医師から提供される資料を元に本を執筆した。しかし、内容には疑問を感じるところもあった。

「著者はもともと、認知症治療の権威とされる医師だったのですが、近年、主張する内容がどんどん極端になっていました」

Aさんが執筆した原稿も、出版社や著者の意向で「ある食品を摂取しさえすれば、劇的に認知症が改善する」と思わせるような表現に変更されてしまった。

「私は単なる“文字書き屋さん”として扱われ、原稿がどう変更されるかも、事前には教えてもらえませんでした」

両親やAさん自身も、重い病気を経験している。だからこそ、健康本については「売れるんだろうけど、やっちゃいけない一線もある」と考える。

「私の母も、健康本に書かれている健康法を、家で試していたりする。いたたまれないですよね。信じるなと言っても“本に書いてあることだから”と、頑なで」

「高齢者では特に、本という媒体への信頼感が強い。母には“そんなの9割ウソだから、作ってるのオレだから”と言いたいです」

待遇も決して良いとは言えない。「健康本を1冊作って10万円以下」という依頼が来たこともある。「アルバイトライターじゃないんだから」と、断った。

出版社サイドから、膨大な量の英語の医学論文を読んでほしいと言われたことがある。Aさんはこの企画は「信頼できるかもしれない」と感じた。

しかし、特に出版社からのサポートはなく、仕事は丸投げ。そのときは「仕方なく、持ち出しで業者に翻訳を依頼した」そうだ。

このような経験から、健康本については「著者だけでなく、出版社の責任も大きいのではないか」とAさんは思う。

「低コストでいい加減な内容の本を作って、それが売れたからとセミナーやインタビューで編集者が自慢する。こんな流れはそろそろ止めないといけない」

しかし、それは簡単ではないとも思う。「私の知る範囲では、あのへんの出版業界はもうめちゃくちゃですわ」ーーAさんは苦い顔をして、言う。

「本の内容は二の次で、とにかく初版を作って売り切ることが第一。契約によっては、増刷分の印税を払わなくて済むように、わざと増刷しないことすらある」

取材中、Aさんは「読者を迷わすような本がたくさんあるなら、迷いを断ち切り、安らげるような本を作らないといけないと思うのですが……」とぼやいた