■ 抗体検査・抗原検査・PCR検査 どう使い分ける? |
忽那賢志 | 感染症専門医 5月13日に抗原検査が承認され、週明けより医療機関での使用が開始されます。 また厚生労働省より献血検体を用いた抗体検査の結果が発表されるなど、抗原検査、抗体検査、PCRなど様々な検査の情報がニュースで流れています。 これらの検査はどう違い、どのように使い分ければよいのでしょうか。 抗体とは? 「抗体」という単語はよく聞かれると思いますが、実際にどんな形をしているかご存知でしょうか。 皆さん、両手を挙げて「Y」を作ってみてください。 はい、それが「抗体」です。 抗体とは、生体の免疫反応によって体内で作られるものであり、微生物などの異物に攻撃する武器の一つです。 免疫グロブリンとも呼ばれ、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEの5種類があります。 例えば、デング熱に感染すると1週間くらいでIgMが、もう少し遅れてIgGが体内で作られるので、デング熱の迅速診断キットは、IgMとIgGを測定することで診断できます。 ただし、抗体は感染してすぐには作られませんので、発症してからしばらくは血液中の抗体を測定しても検出されない時期があります。 ウイルスのどの部分の抗体なのかによって微妙に異なりますが、新型コロナウイルスでは発症から概ね2週間くらいで8割の人が、概ね3週間くらいでほぼ全ての人がIgMまたはIgGが陽性になります(https://doi.org/10.1038/s41591-020-0897-1)。 しかし、発症して間もなくは抗体を測定しても検出されない方が多いので、新型コロナの抗体検査が陰性であっても発症して2週未満であれば「新型コロナではないとは言えない」ということになります。 抗原とは では抗原とは何かと言いますと、チアリーダーが両手に持っているボンボンのようなものです。 チアリーダーが抗体、ボンボンが抗原をイメージしてください。 ウイルスなどの病原体が体内に入ってきた際に、ウイルスのタンパク質が抗原として認識され、抗体が抗原をガッチリ捉えます(チアリーダー完成)。この結合により抗原はマクロファージなどの細胞に食べられやすくなります。 この抗原・抗体反応は人間のウイルスに対する免疫反応の一つです。 抗原検査とは、このウイルスのタンパク質である抗原(ボンボンのみ)を検出するものです。 PCR検査とは PCR検査はウイルスの遺伝子の一部分を測定しますので、発症してウイルスが増えている状態で検査を行えば陽性となります。 「コロナに罹ったら14日で復職OK」は安全な基準か?でもご紹介しましたが、だいたい鼻咽頭のPCR検査は3週間くらいまで陽性になり続けます。 発症してからしばらくはPCR検査が陽性になりやすく、2週以降はIgM/IgGが陽性になりやすくなります。 つまり、今感染しているかどうかを知るためにはPCR検査と抗原検査が向いており、過去に感染していたかどうかを知るためには抗体検査が適しているということになります。 抗原検査とPCR検査はどう使い分けるのか さて、抗原検査とPCR検査はどちらも「今感染しているかどうか」を診断するためのものです。 ではこの2つの検査はどう使い分ければよいのでしょうか。 抗原検査は約30分で診断できるというメリットがある一方、感度はPCR検査に劣るとされます。 抗原検査キットの添付文書には2つの検討結果が記載されています。 1:国内臨床検体(陽性27検体/陰性45検体) 感度37%・特異度97.8% ※ただし用いている検体のウイルス量が少ない検体が多く含まれている 2:行政検査検体(陽性24検体/陰性100検体) 感度66.7%・特異度100% どちらも感度は低く、特異度は高いという結果です。 これはつまり「本当の感染者を見逃してしまうことはあるが、陽性と出た場合の結果は信用できる」ということです。 ウイルス量が多い検体(100コピー/テスト以上)だけで見ればもう少し感度が良さそうですが、いずれにしても「抗原検査が陰性であっても新型コロナを否定はできない」「抗原検査が陽性であれば新型コロナと診断できる」と考えて良さそうです。 現在想定されている使い方は、新型コロナが疑われた方に抗原検査を施行し、陽性であれば新型コロナと診断、陰性であっても確定例との接触歴や渡航歴、臨床症状などから新型コロナが否定できない場合にPCR検査を行うという流れです。 これにより診断までの時間は短縮化されるというメリットがありますが、診断までに二度の検査が必要になる事例が出てきます。 この辺りは、抗原検査の精度改善やPCR検査の時間短縮などで今後改善されていくと考えられます。 抗体検査はどのように役立つのか では抗体検査はどのように使用するのが適切なのでしょうか。 「抗体検査」東京の献血で0.6%陽性、結果にばらつき 例えば、こちらのニュースでは東京で行われた献血の検体を用いて抗体検査をしたところ0.6%が陽性であったというものです。 このように、PCR検査などで確定診断された患者以外に、診断されていない(主に無症状〜軽症の)症例がどれくらいあるのかを把握する上では長期間陽性が続く抗体検査が適しています。 この結果をそのまま解釈すれば、東京都の人口927万人のうち0.6%である55620人が新型コロナに感染していたということになり、実際に都内で診断されているよりも約10倍の感染者がいるということになります。 このように、抗体検査は個人個人の診断というよりも、感染症の全体像を把握し、公衆衛生上の対策に役立てることができます。 抗体検査の解釈の注意点 しかし、抗体検査の結果の解釈には注意が必要です。 さきほど、東京都の人口927万人のうち0.6%である55620人が新型コロナに感染していたということになり、実際に都内で診断されているよりも約10倍の感染者がいるということになる、と述べました。 しかし、抗体検査キットについては現時点ではどれくらい正確なのかに関する情報がまだ十分ではありません。 東京都に住む500人の献血検体を用いていますが、2020年4月の検体の陽性率が0.6%なのに対し、2019年1〜3月の検体の陽性率は0.4%でした。 「そうか・・・新型コロナウイルス感染症は実は2019年の時点で国内で流行していたのか・・・これは世紀の大発見や!」というわけではなく、偽陽性(感染してないのに陽性と出ること)と考えられます。 コロナウイルスの中には風邪の原因となるヒトコロナウイルスも4種類ありますが、これらの風邪のウイルスと交差反応が起こり、風邪を引いた人でもこの新型コロナの抗体検査キットが陽性になってしまう可能性もあります。 この偽陽性を差し引いて考えると、東京都の真の陽性率はそれほど高くないのかもしれません。いずれにしても、より精度の高い抗体検査による、より大規模な検討が必要と考えられます。 抗原検査、PCR検査、抗体検査の使い分け方についてご紹介しました。 これらを使う場合は「正しいタイミングで使うこと」と「正しく結果を解釈できること」が求められます。 検査は万能ではありませんので、それぞれの使い所、長所、短所を理解し、検査の限界を知った上で上手く使い分けることが重要です。 |