■ 12.新生児聴覚検査に関するQ&A





Q1. なぜ新生児聴覚スクリーニングを行うのですか?
A1. 聴覚障害は早期に適切な援助を開始することによって、コミュニケーションの形成や言語発達の面で大きな効果が得られるので、早期発見が重要です。
 近年、新生児期でも、正確度が高く安全で、かつ、多数の児に短時間で簡便に検査が実施できる検査機器が開発され、新生児聴覚スクリーニングが可能になりました。
 平成17年には本邦の出生児の約60%が、聴覚スクリーニングを受けていると考えられます。


Q2. なぜ、新生児全員に検査をする必要があるのですか?
A2. 先天難聴児の約半数は、難聴の家族歴、子宮内感染などにより聴覚障害を合併する危険が高い児であり、従来からこのような例に対しては退院前に聴性脳幹反応(ABR)などの聴覚検査を行ってきました。しかし、残りの半数はこのような危険因子がなく、しかも出生時に何ら異常を示さない児であり、検査を受ける機会がないため、全新生児を対象のスクリーニングを実施しないと早期発見をすることが出来ません。
 また、難聴の頻度は1,000人に1〜2人と、現在マススクリーニングが行われている、他の先天性疾患より頻度が高いので、全新生児を対象に検査を行う意味があると考えられます。


Q3. 新生児聴覚検査とはどんな検査ですか?
A3. 新生児聴覚スクリーニングに使用する聴覚検査は二つの方法があります。自動聴性脳幹反応(Automated ABR)とスクリーニング用耳音響放射(OAE)で、両方とも新生児聴覚スクリーニングのために作られたものです。
 聴性脳幹反応(ABR)は音に対する聴神経から脳幹の電気的反応をみるものですが、防音室で行う検査は児を眠らせて行う必要があり、また、結果の判定は熟練したものが行う必要がありました。自動ABRはベッドサイドで、自然睡眠下で短時間に実施できますし、コンピュータに記憶させた正常児の波形と比較することによって、正常な反応が得られたかどうかを判定する機能を持っています。35dBという、ささやき声程度の刺激音に対しての反応を見ているので、軽度の難聴から発見することが可能です。
 もう一つの方法の、耳音響放射(OAE)は、音が内耳の蝸牛に到達すると、外有毛細胞が収縮、伸展し、基底板の振動を増強しますが、この振動が入力音と逆の経路を通って、音として外耳道に放射されたものが耳音響放射です。スクリーニング用OAEは、刺激音を聞かせ、これに反応して返ってきた音が認められるかどうかを自動的に判定します。この反応が得られた場合には、少なくとも40dB以上の聴力があるとされています。


Q4. 検査でどんなことが解るのですか?
A4. どちらの検査も、精密検査を行う児を選ぶためのスクリーニング検査であり、聴覚障害があることを診断する検査ではありません。「パスpass」の場合は検査による反応が得られたということであり、検査時点では正常の聴力があると考えられます。しかし、「要再検refer」の場合は検査による反応が得られなかったので、再検査が必要です。正常児でも何らかの理由(中耳に羊水などが残っている、耳垢があるなど)でスクリーニング検査時には反応が得られないことがあります(偽陽性)。
 複数回のスクリーニング検査で「要再検refer」の場合は、反応が得られない原因を調べるために精密検査が必要です。「要再検refer」は、直ちに聴覚障害があることを意味するものではなく、聴覚障害の診断は精密検査によって行われます。


Q5. 自動聴性脳幹反応(Automated ABR)と耳音響放射(DPOAE,TEOAE)のどちらを使うと良いですか
A5. それぞれに長所と短所がありますので、検査を行う医療機関に適した方法を使用して下さい。
 ただし、ハイリスク児に対しては、ABRまたは自動ABRでスクリーニングすることが勧められています。この理由は、auditory neuropathy(後迷路性難聴) が、OAEでは正常な反応を示すため、検出できないからです。
 以下に自動ABRとスクリーニング用OAEを比較した表を示します。



検査法 自動ABR DPOAE TEOAE
検査機種(本邦で使用されているもの) ネイタスアルゴ3,3i
MAAS,エイベア,MB11 ER−33,MAAS
オーデックス,イーロスキャン エコスクリーン
MAAS
検査で得る反応 脳幹からの電気的反応 内耳からの反響音 内耳からの反響音
刺激音 クリック音、35dBnHL
700〜5000Hz 異なる周波数の2つの純音。
刺激音の周波数帯を選べる クリック音
操作 電極(3個)及び
イアホーン装着 イアープローブ挿入 イアープローブ挿入
検査所要時間 数分〜十数分 数分間 数秒〜数分間
感度 理論感度は99.96%
35dB以上の難聴を検出可。 後迷路性難聴を感知できないが、正常児対象では100%に近い。40dB以上の難聴を検出可。 後迷路性難聴を感知できないが、正常児対象では100%に近い。40dB以上の難聴を検出可。
要再検率(片側refer含む) 約1% 自動ABRよりやや高い 自動ABRよりやや高い
器械の価格 240万〜480万円 70〜150万円 160万円
消耗品の価格 1,800〜2400円 100〜350円 160円
使用対象 在胎34週から生後6か月まで 成人可 1歳位まで


Q6. なぜ、入院中に聴覚検査を行うのですか?
A6. 入院中に聴覚検査を行う主な理由としては、次のことがあげられます。
 1. 出生直後の赤ちゃんは眠っている時間が長く、検査を実施しやすい。
 2. 検査に適した状態(ほ乳直後など)を選んで検査を実施できる。
 3. 入院中は、再検査を実施しやすい。
 4. 両親への説明に十分な時間が取れる。
 5. ベッドサイドで検査できるので、検査のための特別な場所は不要である。
 6. 先天性代謝スクリーニングも入院中に実施しているが、出生病院入院中が全出生児を
   最も把握しやすい。
 7. 新生児期は検査結果に影響を与える、滲出性中耳炎が少ない。

 出生直後にスクリーニングを行うことが、母児関係の確立に悪影響を与えるのではないかという意見があります。しかし、もし、退院後の外来受診時(3ヵ月検診時など)に全員を検査する方法をとった場合は、次のような難点があります。
 1. 外来受診中に眠っている時間を確保することは難しく、検査に時間がかかる。
 2. 入院中に比し、捕捉率は悪くなる。
 3. 「要再検」となった場合、再度来院しなくてはならず、保護者の負担が大きい。
 4. 再検査の受診率が悪くなる。
(エ) 滲出性中耳炎の例が混じる可能性がある。
(オ) 精密検査、診断、早期支援の開始が遅くなる。



Q7. 入院中に実施できなかった場合は、どうしたらいいですか?
A7. 退院後1か月健診までにはスクリーニングの過程が終了するような日程で、検査を実施してください。


Q8. 新生児聴覚スクリーニングの検査は誰が行うのですか?
A8. 新生児についての一般的知識と新生児聴覚スクリーニングの意義について、十分理解している方が検査を担当するのが望ましく、医師、臨床検査技師、助産師、看護師、言語聴覚士等が適任です。検査の担当者は、検査の意義や、検査機器の扱い方などを、あらかじめ十分学んでおく必要があります。


Q9. スクリーニングを行う前の説明は誰がどのように行えばいいのですか?
A9. 新生児聴覚スクリーニングの意義や検査方法について十分理解している医師、助産師、看護師等が説明します。検査前に「保護者の方へ」(資料6.使用文例1、2)を渡して説明し、同意を得ることが必要です。
 予め、母親学級や両親学級などの機会に聴覚スクリーニングに関する啓蒙をするのも良い方法です。また、母子手帳交付の際に聴覚スクリーニングに関するパンフレットを渡す事も出来ます。


Q10. 検査を行う際の注意点がありますか?
A10. 検査機器に添付されている説明書を十分読んで使用して下さい。  また、実施にあたっては以下の点について注意してください。 1.自動ABRは授乳後の自然睡眠中が検査しやすい。
OAEは泣いていなければ検査可能である。

2.慣れた検査者が検査する方が、要再検率が低くなるので、検査を担当する人はできるだけ少人数に限定することが望ましい。

3.出生直後は中耳に未だ液体が貯留していることが多いため、検査は、生後1日以降が良い。また、退院までに再検査が出来る日程で行う。

4.ベッドサイドでも検査可能であるが、出来るだけ静かな場所で検査を行うことが望ましい。

5.自動ABRは電極の接触抵抗値が上がらないように皮膚の清拭を行った後に赤ちゃんが起きないように優しく電極装着を行う。予め、電極を装着しておき、眠った後に検査することも出来る。

6.OAEで検査を行う場合は検査前に外耳道入り口の耳垢を綿棒で除去する。 あまり奥まで綿棒を入れないように注意する。


Q11. 結果はどのように判定されますか?
A11. 「パス(pass)」あるいは「要再検(refer)」と判定されます。
 「パス」とは、その時点では正常な反応が得られたということで、原則として聴覚に異常がないことを意味します。
 「要再検」とは、その時点では充分な反応が得られなかったことを示しています。しかし、これはただちに聴覚障害があることを意味するのでなく、更に検査が必要であるという意味なので、ご両親への説明の際には、十分な留意が必要です。


Q12. 保護者には結果を誰が、どう説明すればいいのですか?
A12. 結果の説明は、「パス」の場合は、医師、看護師、助産師、臨床検査技師などが、検査に「パス」したという結果を保護者に伝えます。各施設において、誰が、いつ、どのような方法で保護者に伝えるか、予め決めておきます。このときに、資料7. 使用文例3.「保護者の方へ−2」、及び資料7. 使用文例6.「お子さんにはお母さんの声が聞こえていますか」のような、結果を記した書類と言語発達表を保護者に渡し、今後も聴覚や言語の発達には注意が必要であることを話します。
 「要再検」の場合は、精密検査の必要があることを医師が話します。この場合、直ちに聴覚障害があることを意味しているのではないが、反応を確かめるために精密検査が必要であることを保護者に十分理解してもらうことが大切です。保護者、特に母親は分娩後精神的に不安定な状態であり、担当者の言動には細心の注意を要します。


Q13. 検査で「要再検(refer)」となる割合はどれくらいですか?
A13. 片側の「要再検」例も含めて、自動ABR では約1%で、OAEではこれよりやや高くなります。


Q14. 新生児聴覚スクリーニングを数回繰り返して、1回でも「pass」が出れば、「パス」と考えてもいいですか?
A14. 原則として「パス」としてかまいません。
 理論的には繰り返す回数が多くなるほど偽陰性の危険率は増します。しかし、実際には理論的な偽陰性率は非常に低い(アルゴの場合、メーカー公表0.004%)ので、臨床的に問題にはならないと考えられます。


Q15. 早産の場合、検査の時期はいつが適当ですか?
A15. 検査は、修正36週以降、退院までに実施するのがよいと考えられます。


Q16. スクリーニング検査、再検査、精密検査は、どのような検査ですか?
A16. 「スクリーニング検査」は入院中に行うOAE又は自動ABRによる聴覚検査です。1回目の検査で「要再検」となった場合は再度、OAE又は自動ABRで再検査が行われます。
 「精密検査」は、再検査でも「要再検」例に対する耳鼻科で行う、耳鼻科的診察と診断用ABR、診断用OAE、行動聴覚検査(BOA)などによる確定診断のための検査です。


Q17. 精密検査はどこの医療機関で実施していますか?
A17. 日本耳鼻咽喉科学会が選定した全国で190施設の新生児聴覚スクリーニング後の精密診断機関で実施しています。


Q18. 新生児聴覚スクリーニングで「パス」の場合、一生聴覚障害の心配はありませんか?
A18. 検査を行った時点では聴覚に異常がないことを意味しますが、生後の成長過程でおこるおたふくかぜや、中耳炎による聴覚障害や進行性聴覚障害などは発見できません。また、非常にまれではありますが、偽陰性(聴覚障害があるにもかかわらず「パス」と判定してしまうケース)の可能性も否定しきれません。
 このため、保護者には「パス」した場合でも、その後の聴覚の発達等に注意するよう十分説明しておくことが大切です。


Q19. 新生児聴覚スクリーニングの結果、早期支援を要する児はどのくらいいますか?
A19. 早期支援を要する児は1,000人中の1〜2人と考えられます。


Q20. 新生児聴覚スクリーニングで発見された聴覚障害児の言語力は以前より良くなったのですか?
A20. 新生児聴覚スクリーニングで発見された後、岡山かなりや学園で早期療育を受けたお子さんの6歳(就学前)の言語力が報告されていますが、重度の難聴であっても、知的障害がない場合には健聴児と同じ位の言語力を獲得できています。




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