■ 個人発明家のためにも戦い続ける

ー発明家S氏ー

完全なオリジナルというのは存在しませんからどの世界でも知的特許は
問題になります



発明家が異例の勝訴 アップルに賠償命令


 アップルのデジタル音楽プレーヤー「iPod(アイポッド)」。この大ヒット端末を象徴するのが「クリックホイール」と呼ばれるユーザーインターフェース(UI)だ。2004年発売の「アイポッド・ミニ」(写真)で初めて採用し、今でも使われ続けているこのUIは、リング状のタッチセンサーとクリックボタンを組み合わせたもの。この絶妙な二つの円形により爽快な操作感を実現した。

 そしてこれは、おそらく、日本の個人発明家であるS氏が発明したものだ。
 クリックホイール以前、アップルはモデルチェンジのたびにUIを変え、試行錯誤を繰り返していた。そこでS氏は、自分の発明をアップルに売り込んだ。アップルは強い関心を示したが、ロイヤルティなどの条件面で折り合わず交渉は決裂。ところが、その後、クリックホイールを採用したアイポッド・ミニが発売されたため、自分のアイデアを無断で使用されたと感じたという。

 S氏の出願特許は書類不備などにより成立せず、2005年の再出願で成立した。特許成立の前後にアップルと交渉を行うものの、やはり条件が折り合わず、特許侵害による損害賠償請求の訴訟に突入する。アップルも特許非侵害訴訟を起こすなどして対抗。裁判の進行を遅らせるアップルの牛歩戦術もあり、戦いは6年7カ月に及んだ。そして、9月26日、東京地方裁判所はアップルの主張を退け、特許侵害を認めた。3億3664万1924円が、判決で算定された損害賠償額だ。







■ 賠償額100億円を目指す

 「私のような個人発明家の特許の価値が認められたことの意味は、ものすごく大きい」──。

 S氏はこう話す。「これまで日本では大企業が手を取り合って個人の特許を押し潰しており、知財立国どころではなかった。それが変わるきっかけになればいいと思う。個人発明家のためにも戦い続ける」

 よって、一審判決に満足しているわけではない。代理人である上山浩弁護士(日比谷パーク法律事務所)は「クリックホイールはアイポッドの価値の重要な部分を占めており、3.4億円はあまりにも少ない。高裁では引き続き100億円を主張していく」と話す。

 アップルは地裁判決を受けて即日控訴した。高裁がアップルの控訴を受け付ければ、審理の結果、S氏の逆転敗訴ということもありうる。一審で勝訴した喜びもつかの間、S氏は再び、巨人アップルとの厳しい戦いに挑むことになる。