■ 遺伝性血管性浮腫の発作抑制に新たな皮下注製剤


2022/04/22
北村 正樹=医薬情報アドバイザー
医薬品
遺伝性血管性浮腫
カリクレイン阻害薬
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 2022年3月28日、遺伝性血管性浮腫発作抑制薬のラナデルマブ(遺伝子組換え)(商品名タクザイロ皮下注300mgシリンジ)の製造販売が承認された。適応は「遺伝性血管性浮腫の急性発作の発症抑制」、用法用量は「成人および12歳以上の小児に、1回300mgを2週間隔で皮下注。なお、継続的に発作が観察されず、症状が安定している場合は、1回300mgを4週間隔で皮下注も可」となっている。

 遺伝性血管性浮腫(HAE)は、補体成分C1rおよびC1s、血液凝固・線溶系、カリクレイン系に対して広範な阻止作用を有するC1エステラーゼインヒビター(C1-INH)の欠損や機能低下により、顔面、口唇、手足、上気道、消化器など様々な部位に、急性に浮腫が生じる常染色体顕性(優性)遺伝疾患である。この浮腫をもたらす主要なメディエーターは、C1-INHの欠損・機能異常のために過剰濃度となったブラジキニンである。過剰のブラジキニンがブラジキニンB2受容体と結合し、血管拡張や血管透過性亢進を引き起こすことで血管性浮腫が生じる。有病率は世界中で5万人に1人といわれており、日本の患者数は2000〜3000人と推定されている。

 HAEの急性症状は2〜5日間程度で軽快するものの、慢性的に発症を繰り返し、しばしば身動きがとれなくなるほどの激しい腹痛、顔面浮腫を生じ、時には、上気道(咽頭)の激しい浮腫により、致死的な呼吸困難や窒息を引き起こす危険性がある。そのため、発作後は早期治療が必要となる。

 HAE治療薬には、急性発作に対してはブラジキニンB2受容体拮抗薬のイカチバント酢酸塩(フィラジル)の皮下注製剤、急性発作および侵襲を伴う処置による急性発作の発症抑制に対してヒト血漿由来のC1-INH濃縮製剤である人C1-インアクチベーター(ベリナートP)の静注製剤、また、2021年4月より急性発作の発症抑制に対して血漿カリクレイン阻害薬のベロトラルスタット塩酸塩(オラデオ)の経口薬が臨床使用されている。

 ラナデルマブは、既存のベロトラルスタットと同じ血漿カリクレイン阻害薬であるが、循環血中で認められる不活化前駆体プレカリクレインに結合することなく、活性型血漿カリクレインの蛋白質分解活性を阻害する遺伝子組換え完全ヒト型抗ヒト血漿カリクレイン モノクローナル抗体である。ラナデルマブは活性化された血漿カリクレインの基質切断活性を特異的に阻害することで、HAEの急性発作の原因となるブラジキニンの過剰な放出を抑制することが期待されている。

 成人および12歳以上の小児HAE患者を対象とした国内第III相試験および海外第III相試験などから、本薬の有効性および安全性が確認された。海外では、2022年3月現在、欧米など世界50以上の国または地域で承認されている。日本では、2020年6月に希少疾病用医薬品に指定された。

 副作用として、主なものは注射部位反応(疼痛、紅斑、内出血、不快感、血腫、出血、そう痒感、腫脹、硬結、異常感覚、反応、熱感、浮腫、発疹)(52.4%)などであり、重大なものはアナフィラキシーの可能性があるので十分注意する必要がある。

 薬剤使用に際しては、下記の事項について十分留意しておかなければならない。

●急性発作の治療を目的に本薬を使用しないことを患者またはその家族に十分説明し、理解を得た上で使用すること

●国内での治験症例が極めて限られていることから、製造販売後、一定数の症例に係るデータが集積されるまでの間は、全症例を対象に使用成績調査を実施すること