■ 患者や家族の「マキロン飲んだ」を信じるな2017/3/14 坂井 恵=医学ライター




OTCの外用皮膚消毒薬を自殺目的に服用したり、誤飲した患者が救急搬送されてきた時、本人や家族が「マキロンを飲んだ」と話すことがある。しかし、その言葉の信憑性は低く、救急の現場を混乱させる原因にもなるので用心したい。


「患者や家族の『マキロンを飲んだ』の言葉を鵜呑みにしてはいけない」と話す自治医科大学の間藤卓氏。

 「救急で運ばれてきた患者や家族の『マキロンを飲んだ』という言葉は、鵜呑みにしてはいけない」。そう話すのは、この一言で実際に現場が混乱した経験を持つ自治医科大学救急医学講座救命救急センター教授の間藤卓氏だ。

 市販の外用皮膚消毒薬を服用した患者が運ばれてきた場合、服用した製品にα1刺激作用を有するナファゾリンが配合されているか否かで緊急度が大きく異なるが、「マキロンを飲んだ」という一言が、その判別を難しくするというのだ。

マキロンSはナファゾリンを含まない!?

 イミダゾリン系薬剤のナファゾリンは、α1刺激作用を有し、末梢の血管平滑筋を収縮させる作用を持つ。医療用の点鼻薬や点眼薬(商品名プリビナ)として製品化されているが、OTCの外用皮膚消毒薬にも止血の目的で配合されている。

 ナファゾリン含有の消毒薬と言えば、1971年に山之内製薬が発売した「マキロン」が有名だ。止血成分のナファゾリンのほか、局所麻酔薬のジブカイン塩酸塩、抗ヒスタミン薬のクロルフェニラミンマレイン酸塩、殺菌消毒薬のベンゼトニウム塩化物を配合して発売された。当時マキロンは、それまでのいわゆる赤チン(マーキュロクロム液)と異なり、傷に染みないことなどから人気となり、各社からマキロンと同様の処方で、ナファゾリン含有の皮膚消毒薬が発売された。

 その後、マキロンは2006年、主に幼児による誤飲の危険性に配慮して、処方からナファゾリンを除去。成分構成をクロルフェニラミンマレイン酸塩、ベンゼトニウム塩化物、組織修復成分のアラントインに変更し、名称も「マキロンS」に変更している。現在、マキロンSを含む「マキロン」ブランドの製品は第一三共ヘルスケアが販売するが、ナファゾリンが配合された製品は存在しない。

 一方で、旧マキロンとほぼ同じ成分構成で発売された皮膚消毒薬は、今でもナファゾリンが配合されたままだ。しかも、これらの皮膚消毒薬のほとんどは、パッケージがマキロンとそっくり。白い容器に青いキャップ、青地に白抜きの文字で商品名が書かれ、商品名をよく見ないと区別できないほどだ(写真)。


写真 ドラッグストア店頭に並ぶマキロン類似製品(写真提供;間藤氏)

 ナファゾリンを含有する消毒薬の問題は、経口摂取すると重篤な中毒症状が起こることにある。内服したときの致死量は、成人で0.3mg/kg、小児で0.1mg/kgと低く、自殺目的で飲用したり、幼児の誤飲による事故が後を絶たない。マキロン類似製品に含まれるナファゾリンの量は1本当たり50〜100mgと多い。ちなみに、ナファゾリンを含有する消毒薬を口にしても無味無臭で、刺激感もない。

意図せずリスクのある製品を選んでいる可能性も

 間藤氏らの調査によると、マキロン類似製品は、マキロンSを含めて43製品が現在販売されているが、うち30製品にナファゾリンが配合されている。OTC薬のリスク区分上は、ナファゾリンを含有する皮膚消毒薬は「第2類」で、ナファゾリンを含有しない皮膚消毒薬は「第3類」もしくは「指定医薬部外品」と区別されている(下表)。


表 主なマキロン類似製品(間藤氏の資料を基に編集部で作成)※クリックで拡大します。

 とはいえ、多くのドラッグストアでは、これらのマキロン類似製品は混在して販売されている。薬剤師のいない店舗で販売できたり、インターネットを介した通信販売が可能であるなど、販売規制の面でも大きな差はない。

 価格面では、マキロンSは若干高めで1本600円前後、ナファゾリンを含有する第2類の製品は300円前後と半値ほどの値段で売られていることが多い。また医薬部外品は一般に、これよりもさらに安価で売られている。

 つまり購入者からすると、ドラッグストアに並んだ青いキャップで白いボトルの、いわゆる「マキロン」は、高い製品(本物のマキロンS)から安い製品(医薬部外品)までピンキリの状態。「価格に上中下があれば、ヒトは中のものを選びがち。そうした理由でナファゾリン含有製品が選ばれている可能性もある」(間藤氏)。