■ アナフィラキシー2014.6.24


http://www.jsaweb.jp/common/fckeditor/editor/filemanager/connectors/php/transfer.php?file=/uid032318_616E67313131372833292E706466


http://www1.mhlw.go.jp/kinkyu/iyaku_j/iyaku_j/anzenseijyouhou/299-5.pdf#search='%E3%82%A2%E3%83%8A%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%A9%E3%82%AD%E3%82%B7%E3%83%BC%E5%8E%9A%E5%8A%B4%E7%9C%81'






本記事のURL
http://jemta.org/index_140503.html
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こんにちは。
AHA岡山BLS・JEMTA日本救命協会の久我です。

■1.初めに
2012年12月20日に東京都調布市立富士見台小学校で、食物アレルギーを持つ5年生の女児
Sさんが、給食の配膳後に担任から「食べる人いない?」と案内されたおかわりのチヂミ
を、チーズ入りとは知らずに誤って食べて、アナフィラキーショックをおこし、本人が、
「先生、気持ちが悪い」と訴えた14分後に、校長がエピペンを打ちましたが、結局、搬
送先の病院で亡くなるという事故がありました。未来のあるちいさなお子さんが亡くなっ
たことを知った時は何故そのなったのかと非常にショックを受けたことを覚えています。
http://www.city.chofu.tokyo.jp/www/contents/1363069358235/

これまで、このヘルスケア通信でも、エピペンに関わる記事を投稿してきました。
・文科省、児童らへのアレルギー対応ガイドライン(教職員のエピペン使用)公表
  http://jemta.org/index_080426.html
・仮説:エピペンをズボンの上から打つ時はポケットの中身をだしてから
  http://jemta.org/index_100312.html
・『給食でのアレルギー事故から どう守る』 米国での誤食防止・エピペン最新事情
  http://jemta.org/index_130603.html

アメリカでは労働省のOSHAが一定規模以上の企業には一定の安全管理担当者を置き、担当
者にAHAのファーストエイド講習を受けることを義務付けており、ファーストエイドコース
の中でエピペンの使用を含むアレルギーの応急対応もできるように、制度化されています。
ファーストエイドコースでは講義とエピペントレーナーを使った実技訓練をしています。
日本では本人が打てない時に、処方された本人や家族以外にも、学校や幼稚園の職員が代
わって打つことは、反復継続の意思がないことから、医師法には反しないとの解釈が出さ
れ、エピペンの研修を受け、訓練されている職員もおられます。救急救命士も救急救命処
置範囲の改正により、処方された本人に代わって打つことができるようになっています。
尚、処方する側の医師は PfizerPROのHPなどから、エピペン処方の講習と登録をすれば処
方できます。歯科医の先生方は患者さんに処方することはできませんが、同様の講習と登
録をすれば、クリニックにエピペンを常備でき、局所麻酔時のアナフィラキーショック等
に対応できます。
米国のファーストエイドでは、医療機器や薬は使わないことが前提ですがAED とエピペン
とアスピリン(急性冠症候群(ACS)時)の3つだけは別です。BLSやACLSだけでは緊急時に人
を救うことができません。心停止になる前のファーストエイド(応急手当)が必要です。
(AHA ファーストエイドコース http://jemta.org/fa.html

厚労省の人口動態統計によると日本のアナフィラキシーによる1年あたりの平均死亡者は
薬物=27人/年、蜂毒=17人、食物=5人、血清=0.5人、不明=10人(平成18〜23年)であり、
薬物によるものが最も多いです。死亡せずに治癒した人は、年間5000〜6000人です。
又、アレルゲンによる心停止までの平均時間(中央値)は、
薬物=5分、蜂毒=15分、食物=30分となっています。
緊急時に落ち着いて対処するには、事前に、アナフィラキシーのことをよく理解しておく
ことが必要です。


■2.林寛之先生の「アナフィラキシーショック」講義のメモ
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CareNet>連載企画>CareneTVチャンネル>名作チャンネル(無料視聴)
 Dr.林の笑劇的救急問答 [Season1]
 第3回 落としアナいっぱい!アナフィラキシーショック
 http://www.carenet.com/report/carenetvch/carenetv_ch2.html
 (視聴するには、無料の会員登録が必要です。)

本投稿は、福井県立病院 救命救急センター 林寛之先生の講義(研修医向け)のメモです
[☆尚、本メモは一部加筆しています。]
尚、林先生のDVDは購入も可能。(今回の分は救急問答7<上巻>にも収録されています)
https://www.carenet.com/fullsearch?type=dvd&sort=f&bt=&kw=Dr.%E6%9E%97
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■アナフィラキシーの語源
ギリシャ語のana(反対 against)+phylax(保護 protect)
体の免疫状態が保護できない状態にある。

Anaphylaxy vs Anaphylactoid reaction
アナフィラキシーと類アナフィラキシー反応

アナフィラキシー:
抗原と肥満細胞固定抗体が主にIgEと結合して開始される。
IgEを介して、IgEにくっついて、肥満細胞から、Histamine(ヒスタミン),ECF-A,HMW-NCF,
tryptase,kallikrein,PAF,arachidonic acid metabolites,prostaglandin D2,adenosine
などが出る。

[☆加筆]
■肥満細胞:
肥満細胞(ひまんさいぼう)は哺乳類の粘膜下組織や結合組織等に存在する造血幹細胞由来
の細胞。ランゲルハンス細胞と共に炎症や免疫反応などの生体防御機構に重要な役割を持
つ。この肥満という名称は、“肥満”とは関係が無く、膨れた様が肥満を想起させるので
つけられた。顆粒細胞(mast cell:マスト細胞)とも呼ばれる。
[☆]

Anaphylactoid reaction:
IgEを介さずに開始される反応
IgEを介さずに直接、肥満細胞(粘膜下組織や結合組織等に存在する造血幹細胞由来の細胞)
や好塩基球(白血球の一種。血液中に極少量含まれている。大型の顆粒をもつもの)
Anaphylactoid reactionで有名なものは、造影剤によるショック。

■アナフィラキシーの原因
・食べ物、ピーナッツ、魚介類、卵、果物、穀類、そば
・蜂、蛇、蟻(あり)などの毒
・薬剤、ペニシリン、NSAIDs、抗癌剤、プロタミン、局所麻酔
・環境因子:ハウスダスト、花粉
・まむし抗毒素
・ラテックス
・その他:寒冷、温熱、光

■類アナフィラキシー反応の原因
・薬剤:麻薬、アリチル酸、NSAIDs
・放射線検査用造影剤
・プロタミン
・運動

Rusznak C, et al,Anaphylaxis and anaphyiactoid reactions.
Postgraduate Med 2002,111(5) 101-114
http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12040857

日本はピーナッツアレルギーは少ない。外国の場合は、小さい時からピーナッツバターを
塗って使っているので多い。日本はそばアレルギーは結構多い。修学旅行で信州に行って
蕎麦屋の前でふーっと倒れる例もある。じゃがいもみたいに顔が腫れあがって、毛穴がぶ
つぶつと引っ込んでしまう腫れ方をする例など。医療従事者はスタンダードプリコーショ
ンで手袋をしているので、ラテックスアレルギーが増えている。アナフィラキシーと
類アナフィラキシー反応は治療は同じ。

[☆加筆 ■ヒスタミン(C5H9N3):]
普段は細胞内の顆粒に貯蔵されており、細胞表面の抗体に抗原が結合すると細胞外に放出
される。血圧降下、血管透過性亢進、平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進などの薬理作用
があり、アレルギー反応や炎症の発現に介在物質として働く。
[☆]

ヒスタミンの受容体(受容体は3つある)
・H1 血管透過性↑、平滑筋収縮、PG↑
・H2 血管透過性↑、胃酸分泌↑、ヒスタミン分泌↑、サプレッサーリンパ球刺激
・H3 中枢神経、末梢神経伝達物質抑制、ヒスタミン遊離抑制
普段使う抗ヒスタミン剤はH1ブロッカー、胃潰瘍に使うのはH2ブロッカー、抗ヒスタミン
剤を飲むとと眠くなるのはH3の作用。


■アナフィラキシーでどうして死ぬのか?
救急のABC
・喉頭浮腫 Airway (気道がふさがる
・呼吸不全 Breathing (喘息、換気ができない
・ショック shoCk   (血管が拡がって、水が血管から出てて行く。distributive shock
           血液分布異常性ショック。循環が悪くなる)
上記の3つで死ぬ。ということは、「先生、すいません。蕁麻疹です」と言ってきた場合
に、じんましんの治療だけするのではダメで、皮膚の血管だけではなく、中の血管も腫れ
ているのかどうかを調べるのが大事。喉の血管が腫れてつまらないか、肺の血管が腫れあ
がって気管の浮腫ができて息ができなくならないか、全身の血管が拡がってショックにな
らないか。

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[☆加筆 喉頭浮腫]
[咽頭(いんとう)上咽頭 鼻の奥でのどの上。口から直接見えない
[       中咽頭 口をあけた時に見える場所。扁桃腺、のどちんこの向こうが後壁
[       下咽頭 口から直接見えない。のど仏の後ろ側。食堂入口。

[喉頭(こうとう)咽頭と気管の間の部分
[       咽喉から気管に至る部分。中ほどに声帯がある。
http://www.raijin.com/kenko-tsushin/kenko00170jp1.html

[喉頭浮腫(こうとうふしゅ)
[「喉頭浮腫」は、いわゆる「のどぼとけ」に相当する部位にあたる喉頭の内部の粘膜がはれ
[       呼吸が障害される病態であり、医薬品によって引き起こされることがあり
[       ます。喉頭浮腫は咽頭炎や扁桃腺炎など、のどの炎症に続発しやすく、こ
[       れらの症状を併せ持ちます。
[咽頭と喉頭は、上気道に属します。

[PALSコースで、息を吸うとき(吸気)に喘鳴(ぜいめい)が聞こえるのは、鼻から上気道まで
[の間に狭窄部位があるため、息を吐くとき(呼気)に喘鳴(ぜいめい)が聞こえるのは
[下気道の圧迫や狭窄があるためと習うと思います。その理由は、吸気では、上気道内が陰
[圧になるので狭窄するが、下気道は胸腔内圧が陰圧のため広がる。呼気ではその逆で、上
[気道内は陽圧になるので広がるが、下気道は肺の弾性力によって狭窄するためです。
http://med.atsuhiro-me.net/2013/06/blog-post_16.html
[林先生は、CASETの寸劇で、
[A初めに、患者さんに息がつらくないかを聞かれた後、口の中(口蓋垂? )をペンライト
[ をあてて、息を吸わせて、診ておられました。
[B次に聴診器を胸にあてて、患者さんに大きく息を吸ってフーッと大きく息を吐かせて
[ 胸の音を聞いておられました。(左胸と左胸の2回)もし下気道(肺の気管支)が狭窄
[ していれば、吐くときに異常音が聞こえるはずだと思います。
[Dその次にお腹がいたくないか/下痢をしていないと症状を聞かれていました。
[C次に看護師さんに血圧を聞いて、再度測るよう指示しておられました。
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■喉頭浮腫はどうやって診るか?(喉頭浮腫の臨床所見)
くちびるがタラコになっているか否かはあまり関係ない。
・後咽頭浮腫(口をア〜ンと開けてと言った時に喉の奥が腫れていないか)
・口蓋垂浮腫(のどちんこが腫れていないかどうか)
・のどの締め付け感
・嗄声(させい) (かれ声、しわがれ声)

■アナフィラキシーの治療
・エピネフリン
・輸液
・抗ヒスタミン H1 & H2
・ステロイド
   ハイドロコルチゾン 100〜500mg
   メチルプレドニゾロン 125〜250mg
   プレドニゾロン 1mg/kg

蕁麻疹の治療が圧倒的に頻度が多いので、蕁麻疹の治療に慣れていると、抗ヒスタミンや
ステロイドを使う、のんびとした治療に慣れている人が多い。しかし、目の前で死んでし
まうような人、例えばエアウェイがやられる人、ブリージングがやられる人、
サーキュレーションがやられる人は急激に悪くなる。やられてしまうのにかかる時間はど
れくらいか?。多くの場合アナフィラキシーで心肺停止に至るのは約30分〜1時間以内。
三重県の会社員が蜂に耳たぶを刺されて5分で心停止になった。血流がいいところは、要
注意。時間的に早い。診ているうちにあっという間に亡くなる。血管がワーッと拡がって
しまう。戦う一番大事なのはエピネフリン。血管が拡がってしまうdistributive shockで
あるから拡がるボリュームを戻してやる輸液が大切。エピネフリンと輸液はあわてないと
いけない。

■抗ヒスタミンはどれくらいで効いてくるか?
4時間くらいかかる。ステロイドも4時間くらいかかる。1時間から効いてくるが、
ピークは、4〜6時間。効いてくる時間を例えると、エピネフリンはジェット機、
抗ヒスタミン剤は自動車、ステロイドは人力車。

■何故エピネフリンはいいのか?
アドレナリン受容体(Adrenergic receptor )とは、アドレナリン、ノルアドレナリンを始
めとするカテコールアミン類によって活性化される Gタンパク共役型の受容体である。
主に心筋や平滑筋に存在し、脳や脂肪細胞にもある。

α1受容体:血管収縮、粘膜浮腫軽減
α2受容体:インスリン分泌低下、ノルエピネフリン分泌低下
β1受容体:心収縮力増強、脈拍増加
β2受容体:気管支拡張、脱顆粒抑制、血管拡張、糖新生

*脱顆粒……肥満細胞の中にはヒスタミンなどがあり、細胞表面のIgEに抗原が結合すると
その内容物であるヒスタミンなどが放出されること。
心収縮力増強、血管収縮、粘膜浮腫軽減は、皆さん頭に入っていると思うが、実は、肥満
細胞(マストセル)から脱顆粒を抑制する。根っこの部分で、ヒスタミンがでてくるのを抑
える。抗ヒスタミン剤というのはレセプタのレベルで今起こっている反応を抑えるが、基
の肥満細胞や好塩基球からヒスタミンが出るのを抑える薬がエピネフリン。

■エピネフリンが効かないのはどういう時か?
・エピネフリン投与が遅れた場合……呼吸症状やショックが悪くなるのを待ってはダメ
 (一番大事。ヒスタミンとステロイドで様子を見ようとしているとすぐに悪くなる。
  悪くなってからエピネフリンを打っても効かない。早いうちに使わないといけない)
・アナフィラキシーの進行が速すぎる場合……間に合わなかった!
・エピネフリンの投与量が不十分な場合……繰り返し必要な場合がある。
 (1回投与で良くなる思っていると大間違い。2回、3回と必要な場合もある。大体、
  2回くらい。)
・筋注ではなく皮下注した場合……吸収が遅くて間に合わない!
 (よく教科書にも皮下注と書いてあるが、皮下注は効果が遅い。皮下注は血管を収縮さ
  せるため、吸収が悪く、効果発現が遅くなる。)
・患者が立位の場合……立位では静脈還流が減る
 (これが本当かどうか、僕にはよくわからない。)
・薬剤が期限切れの場合……薬効の低下
 (一般の方が持ち歩くエピペンは1年ちょっとたつと期限切れになる。また、診療所に
  ストックしておいて期限切れになることもある。)
・β遮断薬(降圧薬/狭心症状予防薬)やα遮断薬(高血圧治療/排尿障害治療)、 ACE阻害薬
 を服用している場合。
 (一番上の投与が遅れた場合とこの場合は覚えて下さい。βブロッカー、αブロッカー
  ACE-inhibitor(心臓の収縮が落ちている)を飲んで場合は、やはり交感神経の
  カテコラミン系は効きにくい。その時にアナフィラキシーがどんどん悪くなってくる
  場合は、エピネフリンだけでは戦えないことがある。

■エピネフリン
・タイミングが命! 早期につかうべし 遅いのはダメ!
・◎筋注 0.3〜0.5mg 10〜20分後効果判定
  (僕は15分たったら待ちきれないので次を使ってしまう)
   必要なら繰り返す
・×皮下注はダメ。めちゃくちゃ遅い!
・△静注0.1mgずつ 心肺停止、重症ショックで難治になる例あり。
 (実は、静注するのは本当にヤバい時以外はやめといた方がいい。血圧はふれるという
  時に静注すると、ヒドイ目にあうことがある。エピネフリンを10倍にのばして、その
  1/10ずつ使う。結局0.1mgずつ使う。0.1mgちょっと静注して、効かないので、時間が
  たつのでもう効いているはずだと思ってもまだ効かない、血圧低いという時に、もう
  一回使おうと0.1mg追加して、合計で0.2mg使ったら、使った瞬間、血圧が急に200に
  なったり、脈拍が 200にあがったりすることがある。そのような経験がある。あと、
  基礎疾患にもよる。虚血性心疾患を持っている人の場合は、やはり静注はこわい。
  筋注は5分以内に効いてくるわけなので、筋注でいい。脈がふれる場合は筋注。静注
  はよほどの場合でないと、コントロールされた環境で使うべきだと思う。

■筋注は肩の筋肉がよいのか、大きい大腿(だいたい)の外側広筋(